2025.09.12

まね

-56-

本日もあけました!

前回、「独学」というポイントを見出しました。YouTubeやインターネットからの情報摂取をもとに、”見様見真似”で、プロを凌駕する域に達してしまう若者。ただ、そんな話を耳にしても、「まあ、今時のゲームとかデジタルとかに慣れ親しんで育った若者の方が得意な領域だから。」という受け止め方をする大人もいるでしょう。でも、それはどこかで年齢や時代を言い訳にしているだけかもしれません。実際、そんな見方をいとも簡単に吹き飛ばしてくれる、若者の痛快秘話は、決してデジタルに特化したことではなく、むしろ超アナログな世界でも同様だということでした。日本映画の歴史を変えた世界トップレベルのVFXという技術を極めたのと同時に、日本の高級寿司店と遜色ないレベルのお寿司を握れるようになったという、まったく畑違いのことを高次元でやってのける離れ業は、デジタルもアナログも境なく「YouTubeを観て、なんでもできるようになる」10代の学生が”独学力”によって成し得たものなのです。

そして、前回紹介しきれなかった、もうひとりの同年代の逸材も同様でした。「ゴジラ-1.0」の快挙の大きな要因のひとつとして、ひときわ高く評価されたのが海のエフェクトでした。その大規模な海のシミュレーションを担当し授賞式にも出席したのが、VFXアーティストの野島達司さんです。彼もまた、SNSでスカウトされた人材で、コンポジターとして勤務する傍ら、趣味で制作したシミュレーションによる液体や爆発のエフェクト作品が山崎監督の目に留まり、海はVFXの世界でタブーとされてきた領域にもかかわらず、海に挑むと監督が決めるに至ったのは、野島さんの存在があったからだそうです。
そんな野島さんは、自身のYouTubeチャンネルで公開している波のシミュレーション動画など高い技術力を誇り、「ゴジラ-1.0」でも絶賛されたわけですが、その背景にあった非常に重要な要素は「観察」だったのです。野島さんは、ロケに同行し海を撮影し続け、その映像を見続けるうちに、白波と水面の境界線を見出した。そして、その間に半透明の膜を敷くという革新的な手法を取り入れたのです。

世界から絶賛された、野島さんと佐藤さんが、二人とも「独学」でVFXの技術を習得したということに驚きを隠せませんが、そこに通底しているのは「観察」です。野島さんは実際の海の映像を繰り返し何度も見続け、佐藤さんはYouTubeやインターネットを観て、だれに教わるでもなく「門前の小僧習わぬ経を読む」とばかりに、その情報環境にどっぷり浸かって大量摂取し、いつしか自分のものへと磨き上げて、見事なまでに昇華していったのです。

「まなぶ(学ぶ)」の語源は、一説には「まねぶ(真似ぶ)」であると目にしたことがあったのを、ふと思い出しました。
一昔前は、仕事は見て覚える、見て盗むなどという、良くも悪くも日本の伝統芸のような習得スタイルとして謳われた時代がありました。けれども、最近ではそのようなスタイルは若者から敬遠され、きちんと手取り足取り丁寧に教えてあげなければ、職場からは不満の声が上がり、下手をすれば離職にもつながりかねないといった風潮になってきていますが、彼らは真逆の存在です。

これぞ「独立独歩」のねこだましい。自ら「もっと上手くなりたい」「これは一体どうなっているのだろう」という意志や疑問を持ち、能動的に情報に触れ、自身の頭で考え、実際に試行錯誤を繰り返す。そんな「独学独創」によって、比類なき世界最高峰という圧倒的な”最尖端”にまで辿り着くのですから、文字通り「教育」という一生懸命「教え込んで育てる」ものではないと改めて考えさせられます。
”まねび”という最強のまなびの力に感服しきりです。

教える側が「どう教えるか」「なにを教えるか」という立場をとるよりも、「どう”真似ばせる”存在になれるか」「なにを”真似ばせられる”か」という視点でもって、自らがこどもたちにしっかり「観察」してもらえる対象でなければならない、と強く肝に銘じる必要がありそうです。

ご一読いただきまして、ありがとうございました

それではみなさま、よいあけがたを!